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福島地方裁判所 昭和45年(ワ)102号 判決

原告

佐藤緑

ほか一名

被告

日動火災海上保険株式会社

主文

被告は、原告らに対し、各金七五万円およびこれに対する昭和四五年三月一七日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は、第一項に限り、原告らにおいて各金二五万円の担保を供するときは、仮りに執行することができる。

事実

第一、当時者双方の申立て

原告訴訟代理人は、主文第一、二項と同旨の判決ならびに仮執行の宣言を求め、被告訴訟代理人は、「原告らの請求を棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決を求めた。

第二、請求の原因

一、佐藤義秀(以下単に「義秀」という)は、友人から被告を保険者として自動車損害賠償責任保険に付してあつたスバル号軽四輪自動車(八福島う五七一四、以下単に「本件自動車」という)を借り受け、昭和四三年八月六日午前九時一二分ごろ、本件自動車に佐藤玲子(原告両名の母親で義秀の妻、以下単に「玲子」という)および原告両名を乗せ、これを運転して福島市から相馬市に向つて進行中、同市山上落合六番地先の国道一一五号線の路上にさしかかつた際、助手席の荷物に気をとられ、本件自動車を道路下の川原に転落させ、よつて、右玲子に対し全身打撲、肋骨骨折の傷害を負わせ、同日午後三時一五分ごろ、同市柏村病院において、胸腔内出血のため死亡させた。

二、義秀は、本件自動車を自己のため運行の用に供していたものであるから、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」と略称する)第三条に基づき、原告らに対し、後記三以下の損害を賠償する義務がある。

三、本件事故により玲子は次の損害を被つた。

主婦の逸失利益は、主婦が潜在的稼働能力を有する場合、現金収入を得ていたと否とにかかわらず、女子労働者の平均賃金を基礎として算出するのが相当であるところ、労働大臣官房労働統計調査部編昭和四三年「賃金構造基本統計調査報告」第一巻によると、女子労働者の平均賃金は

一七歳以下 金一九、三〇〇円

一八歳から一九歳まで 金二二、一〇〇円

二〇歳から二四歳まで 金二五、七〇〇円

二五歳から二九歳まで 金二八、四〇〇円

三〇歳から三四歳まで 金二七、七〇〇円

三五歳から三九歳まで 金二八、三〇〇円

四〇歳から四九歳まで 金二八、三〇〇円

五〇歳から五九歳まで 金二八、五〇〇円

六〇歳以上 金二五、一〇〇円

である。

玲子は、死亡当時三一年二か月であつたから六〇年に達するまでの三三四か月間就労可能であり、その間少なくとも月収金二七、〇〇〇円を得ることは確実であるから、これから生活費としてその二分の一を控除し、月毎ホフマン式により三三四か月分の現価総額を算出すると金二八二万一、三二五円となり、これが玲子の逸失利益である。

四、原告らは、玲子の子として玲子の損害賠償請求権のうら各三分の一の金九四万〇、四四一円を相続したところ、被告は、玲子の両親に慰謝料金一五〇万円を支払つたのみで、原告らには何らの支払いをしない。

五、仮りに、以上の主張が認められないとしても、原告らは、六歳と三歳の幼児であり、本件事故により今後、生母の愛情を受けることなく生活をしなければならないのであつて、その精神的打撃は甚大であり、とくに情操面に及ぼす影響を考えると前途暗たんたるものがあり、原告らの精神的苦痛を慰謝するには各金一〇〇万円が相当であるが、このうち各金七五万円を予備的に請求する。

六、よつて、原告らは、被告に対し、自賠法第一六条第一項に基づき、各金七五万円およびこれに対する本訴状送達の翌日である昭和四五年三月一七日から完済に至るまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

第三、被告の答弁

一、請求原因第一項の事実中、本件自動車に被告を保険者とする自動車損害賠償責任保険を付していたこと、本件事故により本件自動車に乗車していた玲子が死亡したことを認め、その余は知らない。

二、同第二項の主張を争う。

三、同第三項の事実を否認する。なお、逸失利益を算定するにあたつては租税額を控除すべきである。

四、同第三項の事実中、玲子の両親に慰謝料として金一五〇万円を支払つたことを認め、その余を否認する。

五、同第五項の事実を否認する。

第四、被告の主張

一、本件事故は、義秀が本件自動車に玲子および子である原告らを乗せ、原告ら一家が揃つて相馬市に赴く途中に発生したものであり、したがつて、玲子および原告らは、義秀とともに本件自動車の運行について支配と利益を有していたものであるから共同運行供用者である。また、本件は、形式上玲子または原告らの義秀に対する損害賠償請求権に基づく保険金請求であるが、実質上加害者たる義秀から被告に対する保険金請求にほかならない。すなわち、玲子および原告らが義秀に対し、直接損害賠償責任を追求することはまつたく考えられず、しかも、本件は、加害者である義秀と現に共同生活をしている原告らによつて提起されているが、その結果支払われる保険金は結局義秀の懐中に入るのであるから、実質的には義秀が自己の不法行為に基づく損害賠償請求を一つの法的技術として、被告に対し保険金を請求しているにすぎない。これらのことを考えると、玲子および原告らは、自賠法第三条の「他人」にはあたらない。

二、仮りに、玲子および原告らが本件自動車の運行供用者でないとしても、いわゆる好意同乗者であつて、かかる場合、加害者である運転者に故意またはこれに準ずる重大な過失がない限り、損害賠償請求権が発生しないものと解すべきところ、玲子は運転車の妻であり、原告らはその子であつて、好意同乗者の権限にある者というべきであるから、夫または父親である義秀に対し自賠法第三条に基づく損害賠償請求はできないものといわなければならない。

三、玲子および原告らは、義秀とともに一個の共同生活体を営み、義秀の経済生活圏内で同人によつて扶助扶養される関係にあつたものであり、このような場合、玲子および原告らが義秀から受けた損害というものは考えられず、仮りに、何らかの損害が発生したとしても、このような損害賠償債務は自然債務であり、このような請求権の行使は権利の濫用であつて、玲子および原告らは被告に対し、損害賠償請求をすることは許されない。

四、仮りに、義秀に責任があるとしても、玲子にも次のような過失があつたから斟酌されるべきである。すなわち、玲子は、本件自動車に乗車し、車酔いをしていたのであるから、義秀の運転を中止させるべきであつたのに、後部座席から足を助手席の背あてに乗せたまま運転を継続させ、また、タオル、新聞紙等を一定の場所におかなかつたので車内を移動させるなどして義秀の注意をそれらに向けさせ、義秀をして運転に専念させなかつた。

第五、被告の主張に対する原告の反論

一、被告主張の第一項を争う。義秀は、本件自動車を友人から一時借用して運転したものであるが、玲子は自動車の運転ができず、義秀とドライブに出かけたのは本件が最初であり、しかも本件事故発生当時気分を害し、原告らとともに後部座席に乗つていたものであることなどからすれば、本件自動車の運行支配および運行利益はもつぱら義秀に帰属していたものであつて、玲子は単なる同乗者にすぎず、原告らも幼児であつて同人らの自動車の運行支配および運行利益の帰属など認められない。したがつて、玲子および原告らは自賠法第三条の「他人」に該当することは明らかである。

二、同第二項を争う。好意同乗者につき運行供用者の責任を認めるためには故意または重過失を要するとの見解は条文に反し、また、好意同乗を理由に運行供用者の軽過失責任を排除することはできず、好意同乗者の他人性を認める以上、被告の主張はすべて理由がない。

三、同第三項を争う。近親者間において損害賠償請求権を否定しなければならない理由はなく、これを肯定することが近親者間の協力扶助の義務とも何ら矛盾するものではない。また、損害賠償請求権を認める以上、それを自然債務と解する必要はない。近親者においては、違法性が欠如することあるいは宥恕されることが多いであろうが、本件のように過失運転という高度の違法行為が認められるような場合には、不法行為の成立を否定すべき理由はない。さらに、子が加害者たる親の資力を保険によつて保障することは、自賠法の目的にかないこそすれ、権利の濫用と目すべきものではない。

四、同第四項について原告らは認否をしない。

第六、証拠関係〔略〕

理由

一、本件自動車に被告を保険者とする自動車損害賠償責任保険を付していたこと、本件事故により玲子が死亡したことは当事者間に争いがなく、〔証拠略〕によると、原告らの父義秀は、昭和四三年八月六日、友人の坂本忠喜から借り受けた本件自動車を運転し、これに妻玲子および原告らを乗せ、一家揃つて相馬市の原釜海水浴場に赴く途中、本件事故を惹起させたものであることが認められる。したがつて、本件事故発生当時、義秀が本件自動車を自己のため運行の用に供していたことは明らかである。

二、そこで、まず義秀の自賠法第三条に基づく責任について判断する。

1  被告は、玲子および原告らは義秀とともに本件自動車の運行供用者であると主張する。ところで、自賠法第三条の「他人」とは、運行供用者、当該自動車の運転者および運転補助者を除くそれ以外の者をいい、そして、運行供用者とは、具体的に運行支配と運行利益との帰属する者をいうのであり、義秀が右にいう運行供用者に該当することは前示のとおりである。〔証拠略〕によると、玲子は、自動車を運転することができず、義秀とドライブに出かけたのは本件が最初であり、事故当時義秀の運転する本件自動車の後部座席に同乗していたけれども、義秀の運転を補助するための行為に出たことはなく、義秀からそのようなことを命ぜられたこともなかつたし、また、本件事故当時本件自動車に乗つていた原告緑は五歳、同貢司は一歳の幼児であつたことが認められる。以上認定した事実によれば、玲子および原告らが本件自動車の直接の運行利益を得ていたことは明らかであるが、運行を支配していたとは認められないから運行供用者ということができず、また、玲子が義秀の運転補助者ということもできないのであつて、玲子および原告らは単なる同乗者にすぎないというべきである。

次に、被告は、原告らが玲子の義秀に対する損害賠償請求権を相続したとして被告に保険金を請求しているが、それが認容されると、その保険金は本件事故後も原告らと円満な共同生活を営んでいる義秀の手中に帰するから、このような場合、玲子および原告らが自賠法第三条の「他人」には該当しないと主張する。しかしながら、民法が個人主義に立脚し、個別財産主義を採用していることからして、法律的には親子、夫婦であつてもそれぞれ独立した人格者であり、別個の権利義務の主体となり得るのであるが、未成年者である子が訴訟能力を有しないため、加害者である親権者が被害者である子に代つて訴訟を提起するにすぎず、その結果得られた賠償金は、民法第八二四条以下の規定により、子の財産になるのであつて、事実上加害者たる親が費消することもありうるからといつて、事実上の可能性を強調することによつて、右の法律的帰属を無視することは相当でない。

以上いずれの点からしても、玲子および原告らは自賠法第三条の「他人」に該当するから、この点に関する被告の主張は採用することができない。

2  被告は、玲子および原告らは好意同乗者であるから、義秀には自賠法第三条の責任はない旨主張する。しかし、自賠法には、被害者が好意同乗者の場合、加害者である運転者に故意またはこれに準ずる重大な過失のない限りその責任を免除する旨の規定がなく、ましてや好意同乗者に対する運行供用者の責任を免除する旨の規定も存しないのであり、明文の規定を欠くにもかかわらず、そのように解釈すべき合理的根拠は乏しいと考える。しかも、玲子および原告らが、義秀の運転する本件自動車に乗車するに際し、義秀の一切の不法行為を認容して事前に損害賠償請求権を放棄したものとは考えられず、むしろ義秀の運転技術を信頼し、無事故運転を切望して乗車したはずである。したがつて、運行供用者が好意同乗者に対し、賠償責任を負わない旨の被告の主張は理由がない。

3  被告は、親子、夫婦間のように生活共同体の構成員相互間の事故については損害が発生せず、かりに発生したとしても、それは自然債務であり、また、損害賠償請求権を行使することは権利の濫用であると主張する。しかしながら、自賠法には、外国の立法例あるいは日本における任意保険の約款で規定しているように、生活共同体の構成員相互間の事故について自賠法を適用しないとし、またはこれを自然債務とする旨の規定は存しない。確かに生活共同体の構成員相互間では利害が共通の基盤に立つており、しかも互いに協力扶助すべき関係にあるから、一方の損害は他方の損害ともなる。しかし、それは協力扶助義務を媒介として生ずる現象であつて、構成員の一人が受けた損害は、それが第三者の行為に起因するものか他の構成員の行為に起因するかを問わず、依然として被害を受けた構成員の損害であることには変りがないのであつて、生活共同体の構成員間に協力扶助の義務があるからといつて必ずしも論理必然的に構成員相互間における損害賠償義務の成立を否定し、またはこれを自然債務視すべき理由にはならないし、そのように解することも相当とはいえない。ただ、一般に円満な共同生活が営まれている場合、その構成員相互間で損害賠償請求をするようなことはないであろうが、それは円満な共同生活が営まれている限り、構成員相互間において金銭が移動することによつて果す経済的機能が零に近いことと、そのような損害賠償請求権の行使と円満な共同生活の継続とはあいいれないという事実にもとづくものであつて、損害賠償請求権の行使が一定の金銭的価値を構成員相互間において移動させるに止まらず、また円満な共同生活を破壊するおそれがない場合には、むしろ生活共同体の構成員相互間においても損害賠償請求権を行使するのが通常であろうし、これをあえて禁止すべき理由は見当らない。しかも本件は、玲子の保険金請求権の行使であり、義秀に対する損害賠償請求権の存在ないしその行使の許否は、その論理的前提または法律的手段にほかならないのであるから、玲子の義秀に対する損害賠償請求を認めることは実益がある。ただ、論理的前提たる損害賠償請求権がおそらく行使されないであろうし、原告らの受領する保険金は実質的に加害者たる義秀に費消される可能性があることから、いわば第三者である被告において義秀に代つてその後始末をすることは、一般的な法感情に反する面のあることも否定できないところではあるが、近時における交通事故の多発と被害者またはその遺族の保護の必要性にかんがみ、自動車について保険契約の締結を強制し、できるだけ自動車事故による損害賠償を保障して被害者の保護を図ろうとしながら、なお十分な保障をなしえない自賠法の立法趣旨および現状と比較考量するとき、右のような法感情はなおしばらく席を譲るべきであるといわざるをえないから、原告らの本訴請求は、何ら権利の濫用とはならず、したがつて、被告の主張は理由がない。

以上の次第で、義秀には自賠法第三条の責任があるところ、〔証拠略〕によると、原告らは、玲子と義秀との間における子であり、玲子の相続人は原告らと義秀であることが認められるので、原告らは玲子の損害賠償請求権のうち各三分の一を相続したものであることは明らかであり、したがつて、被告は、原告らに対し自賠法第一六条第一項に基づく後記損害賠償額を支払う義務がある。

三、そこで、玲子の逸失利益を算定することとする。

〔証拠略〕によると、玲子は、昭和三六年一一月義秀と結婚し、その後も清水農業協同組合に勤務して共働きをしていたところ、二番目の子供が出生したので右組合を昭和四〇年三月末日退職し、家事労働に従事するかたわら内職を続け、月平均八、〇〇〇円の収入を得ていたが、本件事故当時三一歳二か月の健康な主婦であつたこと、一方義秀は、本件事故当時福島市所在の東北開発株式会社に勤務し、同社から本俸金三三、二五〇円、扶養手当金二、二〇〇円と若干の残業手当、職場手当の支給を受けていたが、これに玲子の内職による収入を加えても親子四人での生活には余裕がなく、全収入のほとんどを生活費にあてていたことが認められる。

右認定のとおり、玲子は、家事労働に従事する主婦であるが、主婦の家事労働による逸失利益が認められるか否かは問題の存するところである。一般に家事労働に従事する者に対し、金銭的対価が支払われないのが通例であるが、それは単に身分関係ないしは家族共同体の性質に親しみにくいから一々対価が支払われないだけであつて、主婦の家事労働が本質上財産的に無価値であることまで意味するものではない。家事労働に従事する者がいないときは一般に家政婦を雇わざるを得ないが、その場合当然相当の対価が支払われるのであり、また、夫婦の身分関係を解消する場合に財産分与の請求をすることができるが、その額の算定にあたつては主婦の家事労働の評価が許されるのであつて、これらのことからすると主婦の家事労働に収益性を認めないわけにはいかないのであり、そして、その評価は、女子労働者の平均賃金によつて算定するのを相当とする。

ところで、弁論の全趣旨により成立の認められる甲第四号証(労働大臣官房労働統計調査部編昭和四三年「賃金構造基本統計調査報告」第一巻)によると、昭和四三年における全国女子労働者の平均賃金は、三一歳から六〇歳に達するまでの間いずれも一か月金二万七、〇〇〇円以上であることが認められ、そして前記認定事実によれば、玲子は死亡当時から六〇歳に達するまでの三三四か月間家事労働に従事し、その間一か月金二万七、〇〇〇円を下らない収益をあげうるものと推認することができるが、その生活費は右収入額の五割程度と認めるのが相当である。なお、被告は、逸失利益を算定するにあたり、租税額を控除すべきである旨主張する。しかし、所得税法第九条第一項第二一号で損害賠償として被害者の得た一時所得を非課税としているのは、なるべく、被害者の保護を厚くするための社会政策的見地から国家の租税債権行使の謙抑として立法化されたものであつて、かかる見地からすれば、被害者の逸失利益の算定は、損害賠償として得た所得が課税の対象とされるか否かとは関係がないというべきであるから、損害額の算定にあたつては租税額を控除すべきものと解するのは相当でない(最高裁判所昭和四五年七月二四日判決、判例時報六〇七号四三頁参照)。

そこで、玲子の取得しうべき毎月の収益額金二万七、〇〇〇円からその生活費金一万三、五〇〇円を控除し、これを基礎として死亡時に一時に請求するものとして月毎のホフマン式計算法により年五分の割合による中間利息を控除してその現価総額を算出すると、金二八二万一、三二五円(円未満を四捨五入)となり、これが本件事故による玲子の逸失利益である。

四、被告の過失相殺の主張について検討する。

〔証拠略〕によると、本件事故は、助手席に乗車していた玲子が車に酔つたので後部座席に移り、助手席の背あてを前方に押し倒してその上に足をのせ、義秀が運転を中止しようと申し出たのを断わり、そのまま運転を継続させたところ、義秀が助手席においてあつたタオル、新聞紙等をいつたん玲子の足にかけ、さらにこれを取り除こうとして前方をよく注視せず、右片手で運転したため、ハンドル操作をあやまつたことによつて発生したものであることが認められ、他に右認定を左右する証拠はない。右認定事実によれば、本件事故における義秀の過失の程度に比すれば、玲子の前示所為はその損害額の算出にあたつて考慮すべき過失と認めることはできないから、被告の右主張もまた採用することができない。

五、以上説示のとおり、本件事故による玲子の逸失利益は金二八二万一、三二五円であるところ、原告らは玲子の子として各三分の一の相続権を有するから、各金九四万〇、四四一円を相続したものというべきである。ところで、本件事故当時における死亡した者に対する責任保険の保険金額は金三〇〇万円(昭和四四年法律第六八号による改正前の自賠法第一三条、同年政令第二七〇号による改正前の同法施行令第二条第一号イ)であつたが、被告はすでに玲子の両親に対し慰謝料として金一五〇万円を支払つていることは当事者間に争いがないので、結局、被告はその残額一五〇万円の限度で保険金を支払うべき義務がある。したがつて、原告らが被告に対し各七五万円およびこれに対する訴状送達の翌日であることが記録上明らかな昭和四五年三月一七日から完済に至るまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める本訴請求は、すべて理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条第一項を、それぞれ適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 丹野達 三井善見 新田誠志)

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